プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 102」
福居は阪急富田駅前の書店が閉店となったため、文庫本や雑誌を見るためにはJR高槻駅近くにある、紀伊國屋書店かジュンク堂書店か大垣書店に行かなければならなくなった。駅から一番近い大垣書店に行くことが多いが、今日は入店すると雑誌のコーナーにM29800星雲からやって来た宇宙人に似た人がいた。声を掛けようと思ったが、いつもと様子が違ったので福居は迷った。その人は鼻ヒゲと顎ヒゲを伸ばしていて顎下10センチまで伸びていた。福居がM29800星雲からやって来た宇宙人と最近会った時にヒゲはなかったし今までにヒゲを伸ばしているのを見たことがなかった。その人は天文ガイドを立ち読みしていたが、本を閉じて棚に戻したので福居は違っていたら申し訳ないという顔をして小さな声で尋ねた。
「あのお、違っていたら申し訳ないのですが、あなたは谷さんでしょうか」
「ソウデスガ、アナタハフクイサンデスカ」
M29800星雲からやって来た宇宙人が笑ながら答えたので、福居はさらに質問した。
「いつもと違うものがあるので、違う人かと思いました」
そのように福居が尋ねると、M29800星雲からやって来た宇宙人はヒゲをしごきながら話した。
「ソウイウアンタカッテ、ヒゲヲノバシハジメタノハサイキントチャウン」
「ええ、鼻ヒゲは仕事をやめてから、顎ヒゲはコロナで安静にしていた頃からです」
「ダレカノススメナンカ」
「いいえ、ただ30年以上前からおつき合いいただいている方が15年くらい前からヒゲを伸ばし始めたので、それにあやかって伸ばし始めました。仕事をしていた時は許されなかったのですが、一度は伸ばしてみたかったのです。でも再度人前で仕事をするようになったら、改めようと思っています。顎ヒゲは無精して伸ばしていたらまあまあいけると思ったので、クラリネット教室の先生とか受付の人から似合ってないよと言われなかったらそのまま続けようと思いました。今のところは大丈夫です。谷さんはどうして伸ばそうと思ったのですか」
「ワシハアンタノマネヲシタダケヤ。ココハナニガウマインヤトイッテオナジモンヲクウタノトオナジキモチカラカナ」
「そうですか。でもぼくの真似をしても何もメリットはないと思うのですが、ぼくに興味を持っていただいているのは有難いと思います」
「ダカラ、ワシトシテハアンタガモットオモシロイコトヲシテクレンカナト、チョビットキタイシトル」
「期待ですか?」
「ソウ、アゴヒゲヲ30センチクライノバシテミツアミニシタリ、ハナヒゲニワックスヲヌッテカイゼルヒゲニシタリ、ミミカラウエハソッテシモウテ・・・」
「ぼくは顔で笑いをもらおうと思っていないので・・・それに賞をもらったらもっと見た目を良くしようと思っています」
「ヒゲヲヤメルンカ」
「さあ、鼻ヒゲだけならかっこよく見せられるんではないかと思っています。でもいまのところあてはありませんから安心してください」
「ソウカ、アンシンシタワ。マア、キナガニマットルケドダラシナイカッコハセンホウガエエヨ」
「その通りです。顎ヒゲで三つ編みはしません」
「ソウカ、アンタノキモチガヨクワカッタワ。ハナヒゲデミツアミデキルマデマツワ。トコロデヒゲデユウメイナヒトノオモロイキョクヲオシエテクレヘン」
「ヒゲを生やした作曲家としてはブラームス、ドビュッシー、ビゼー、チャイコフスキー、ドヴォルザークなどが有名ですが、一番印象に残るヒゲはカイゼル髭の金ぴか像のあるヨハン・シュトラウス2世でしょう。あまりに明るい曲ばかりなのであまり聞かないのですが、「美しき青きドナウ」と「ウィーンの森の物語」と喜歌劇「こうもり」序曲は好きですよ。でもあえてレコードやCDを聞こうとは思いませんね」
「アンタハクライキョクガスキヤカラネ」