心に沁みる名盤(シューベルト ピアノ三重奏曲第2番)

私がクラシック音楽を聴き始めた1978年頃はレコード芸術とステレオ芸術というレコード愛好家のための雑誌がありました。音楽評論家の方が書かれた読み物も興味深かったのですが、私はむしろ大作曲家の名盤の特集や名盤の広告ばかりを見ていました。中でもSP時代から1960年代までのレコードは特に興味がありました。当時はアナログレコードの時代でしたが、1970年代に製造されたレコードは厚さがなく(薄っぺらで)音がかたい(やわらかくない)気がしたからでした。また名演奏家の活躍も1960年代くらいまでで、私が好きな、アンセルメ、ストコフスキー、ミュンシュ、オーマンディ、セル、リヒターなどの名指揮者が活躍したのも1950年代後半から1960年代でした。また好きな名演奏家が活躍したのも1960年代までが多かったと思います。ピアニストではケンプ、バックハウス、ホロヴィッツ、ルドルフ・ゼルキン、ルービンシュタイン、フランソワ、リヒテル、ヴァイオリニストではハイフェッツ、オイストラフ、リッチ、シェリング、グリュミオー、チェリストではカザルス、フルニエ、クラリネット奏者ではウラッハ、ド・ペイエ、フルート奏者ではランパルなど、たくさんの名演奏家が活躍しました。これらのソリストと弦楽四重奏団やそのメンバーが共演したレコードにも素晴らしいものがあります。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団とウラッハが共演した。モーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲は今でも輝きを失わない名演と言われます。ピアノ三重奏団にはカザルス・トリオ(カザルス、ティボー、コルトー)のように固定したメンバーの録音が多いですが、ルドルフ・ゼルキン(息子さんがピーター・ゼルキンというピアニストです)は固定のメンバーではなく、ベートーヴェンのチェロ・ソナタでカザルスと共演したり、ブッシュ兄弟と共演してシューベルトのピアノ三重奏曲第2番を録音しています。アドルフ・ブッシュが第1ヴァイオリンを担当するブッシュ弦楽四重奏団のベートーヴェンの弦楽四重奏曲もいつか聴きたいのですが、シューベルトのピアノ三重奏曲第2番のレコードも魅力的なレコードです。
シューベルトの室内楽曲の中には、ピアノ五重奏曲「ます」のような明るくさわやかな曲もありますが、弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」、弦楽五重奏曲のような途轍もなく暗い曲もあります。ではこのピアノ三重奏曲第2番がどうかと言うとヴァイオリンとチェロが、頑張れよと励まし続ける中でゼルキンの手がピアノの鍵盤の上を玉を転がすように走り回る曲という感じです。特に第4楽章にそれが顕著です。だから私は落ち込んでいる時にこの曲を聞きたくなります。ただ別の演奏では玉を転がすように弾いてくれないようなのでこのゼルキンのレコードがそういうところでも一番優れていると思います。

ルドルフ・ゼルキン(ピアノ)、アドルフ・ブッシュ(ヴァイオリン)、ヘルマン・ブッシュ(チェロ)による
     シューベルト  ピアノ三重奏曲第2番