ディケンズの長編小説の登場人物紹介   主人公編

サミュエル・ピクウィック 『ピクウィック・クラブ』の主人公

仕事を引退した独身の中年男性。禿頭、丸眼鏡、まん丸な体型がトレードマーク。自らが創設したピクウック・クラブの会長となり、タップマン、ウィンクル、スノッドグラスの3人のお伴を連れて全国を訪ね歩き、見聞したことを本部に報告している。彼はしばしば予期せぬトラブルに出くわし、ジングル、弁護士のドッドソンとフォグなどが行く手を阻むが、途中から四囲の情勢に素早く反応する召使いサム・ウェラーが加わり、明るい展望が開けるかに見えた。しばし友人達と楽しい時間を過ごすが、それも束の間、下宿の女将のバーデル夫人に誤解され、不当な裁判の被告にされてしまう。

オリヴァー・トゥイスト  『オリヴァー・トゥイスト』の主人公

旅の途中で行き倒れになった女性が男児を救貧院で出産。オリヴァー・トゥイストと名付けられ、養育院で育てられる。9歳になるとオリヴァーは救貧院に戻るが、食事の時に管理者たちを怒らせ、5ポンドでこの子を引き取ってくださいとの広告を出される。葬儀屋に引き取られたオリヴァーは悲しそうな顔つきをしていると大切にされるが、徒弟のノアにいじめられ、殴り掛かってしまう。その罰として親方に監禁されたオリヴァーは、ロンドンで活路を見つけようと決心する。

ニコラス・ニクルビー  『ニコラス・ニクルビー』の主人公

血の気は多いが、誠実な青年。父が亡くなり生活が困窮を極めたため、叔父のラルフを頼って、母親、妹ケイトとともにロンドンに出て来る。ラルフは冷血漢の高利貸しだったため、ニコラスらの頼みを迷惑としてしか受けとらなかった。特にニコラスに対してはつらくあたり、すぐに寄宿学校の助教師としてヨークシャーに送られる。持ち前の正義感から寄宿学校の経営者のスクィアズと対立したニコラスは、あることがきっかけとなって堪忍袋の緒が切れて、スクィアズを打擲してしまう。

ネル  『骨董屋』の女主人公

天使のように清らかで優しい少女。小柄で華奢であることから、リトル・ネルの愛称で呼ばれる。祖父は骨董屋を経営していたが、ネルを幸福にしようと賭博に熱中し、高利貸しのクウィルプからも借金をしたため財産の一切を失ってしまう。破産し骨董屋が差し押さえられたため、迫害を恐れた祖父はネルを連れて放浪の旅に出る。ネルは廃人同然の祖父と一緒に旅に出たが、クウィルプに追われ心身ともに疲れ果て、最後にたどり着いたのは、田舎の古い教会だった。

バーナビー・ラッジ  『バーナビー・ラッジ』の主人公

知的障害を持つが、母親思いのやさしい青年。外観は、痩せているが身の丈は大きくがっしりしている。赤毛のざんばら髪で、目は飛び出している。バーナビーと母親メアリーはロンドン近郊で静かに暮らしていたが、ある日、以前にも来たことがある、見知らぬ男がやって来て、食べ物と金を要求したため、母親は息子とともに家を出て、遠くの田舎の村へ行くことにする。旅の途中で大群衆と出会ったふたりははぐれてしまい、バーナビーはその体格と度胸を見込まれ、暴徒に加わることになる。

マーティン・チャズルウィット(孫)  『マーティン・チャズルウィット』の主人公

同名の老人の孫。利己的な性格で身の置き所がなくなり、一攫千金を狙って、アメリカに渡る。しかし不毛の土地で一年暮らして成長し、祖父と仲直りし、最愛の人と結婚するまでになる。

ポール・ドンビー  『ドンビー父子』の主人公

ドンビー父子商会を経営している。娘がいるが、後継者となる息子のことしか頭にない。待ちに待った息子が生まれ大喜びするが、夫人は出産後すぐに亡くなる。息子に専門の教育を受けさせるために寄宿学校に入れるが、息子は体調を悪くして夭折する。その後美しく家柄のよい未亡人イーディスと結婚するが、うまくゆかず、腹心の支配人カーカーに奪われてしまう。打ちのめされ、自殺しようとまで考えたポールの心を和ませてくれたのは、つらい思いばかりをさせてきたフローレンスとその息子だった。

デイヴィッド・コパフィールド  『デイヴィッド・コパフィールド』の主人公

出生の半年前に父親が他界。叔母は、自分の名前を継がせることができる女子でなかったために親代わりとなることを断ってしまう。成長してデイヴィッドは乳母の実家で過ごすが、その間に甘言を弄して母親に近づいたマードストン姉弟に病弱な母親は家の実権を奪い取られてしまう。冷酷な義父に反抗したデイヴィッドは寄宿学校に送られるが、ここでよき友人に恵まれる。それも束の間、母親はマードストン姉弟の強引さに気力体力が尽き他界する。デイヴィッドは母の死後、義父に寄宿学校を退校させられ長時間労働を強いられることになるが、一大決心をして、ただ一人で肉親の叔母を頼って徒歩でロンドンを発ってドーバーに向かう。

エスタ・サマソン  『荒涼館』の女主人公

孤児で叔母に育てられる。エスタは叔母から冷たい言葉を浴びせられて育ったため、不幸な少女時代だった。叔母の死後、ジャーンディスに引き取られ、ジャーンディスの親戚のクレア、リチャードのふたりと一緒に暮らすことになる。ジャーンディスが大法院裁判の当事者であり、交友関係も広いため、エスタも多くの人と関係を持って物語は進んで行く。ジャーンディスに係わる部分(ジャーンディス対ジャーンディス訴訟が中心)が三人称で語られ、エスタの周りで起ることが一人称で描かれるため、別の話が同時に進んで行くように思われるが、終りに近づくに連れてひとつの物語として認識できるようになる。

トマス・グラッドグラインド  『ハード・タイムズ』の主人公

コークタウンに住む引退した工場主。教育に熱心で自ら学校を経営し、自分の娘ルイーザと息子トムをそこで教育する。自身の教育哲学は、「想像力」を排し、「事実」に特別の重要性を置くことであったが、ルイーザもトムも人生に失敗したため、彼は自分がして来たことの誤りに気づく。

アーサー・クレナム  『リトル・ドリット』の主人公

中国で父親と死別し帰国。母親の家でエイミー(リトル・ドリット)と出会う。アーサーがエイミーとその父親を調査していると、昔の恋人フローラと会う。フローラに幻滅を感じたアーサーはミーグルス家を訪ねペットに惹かれるが、愛していることを言い出せないままに終わる。アーサーはドイスとともに会社の共同経営を始めるが、会社のすべての金をマードルの企業に投資したため、マードルの破産により無一文になる。債務者監獄に収監されて病気になった彼を救ったのは、同じ監獄で生まれた時から生活し、最近になって父親に巨額の遺産が入ったエイミーだった。

シドニー・カートン  『二都物語』の主人公

だらしない生活をしているが、実は有能な弁護士である。常に相棒のストライヴァーの引き立て役であるが、ダーネイの裁判で彼の妻ルーシーが気を失うのを見てルーシーに惹かれる。ダーネイが自分と似ていることを利用して裁判を勝ち取るが、これをきっかけにしてカートンはルーシーの家を訪れるようになる。ルーシーのためならどんなことでもすると約束した彼は、フランス革命の煽りで捕えられ、罪人として死刑を宣告されたダーネイの身代わりとなって、断頭台の露と消える。彼が残した手紙には、心を打つ言葉が書かれてあった。

ピップ  『大いなる遺産』の主人公

幼くして両親を亡くし、姉夫婦のもとで育てられる。物心がついた頃に、脱獄囚の手助けをして感謝の念を持たれたことと男に裏切られて復讐心を滾らせている女性に育てられた少女との出会ったことが彼の人生に大きな影響を与える。また幼少の頃は姉の夫のジョーが、成人してロンドンに出てからはピップの家庭教師となったマシュー・ポケットの息子ハーバード・ポケットが掛け替えのない友となり彼の拠り所となる。それでもピップは脱獄囚マグウィッチと再会することで大きく成長し、自分で人生を切り開いて行くようになる。

ジョン・ハーモン  『我らが共通の友』の主人公

14才の時に父親に勘当されて外国で暮らしていたが、父親の死の知らせを受け帰国する。父親は巨額の遺産を残したが、相続するためには父親が選んだ許嫁ベラ・ウィルファーと結婚することが条件となっている。ベラのことがわからず船中で一計を案じた彼は、船員の仲間たちに船員とともに命を奪われそうになるが、一命を取り留めロンドンにたどり着く。ジョンは船員の死体が自分の死体と誤認されていることを知り、ジョン・ロTークスミスと名前を変えて、ウィルファー家の間借人となり、父親の信頼の厚かった部下のボッフィン夫妻には秘書として雇ってもらう。